2008年年賀状 | |
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「今年も明けましたね。」 「まあ年は明けるよね。」 「明けない年はないと。」 「まあ当たり前だよね。」 「そんなこんなでね、毎年この時期だけ絵を描くわけだけど。」 「何で?」 「何で、ってあんたも描いてるでしょ。」 「まあ描いてるけどね。」 「とにかく、正月だから年賀状ですよ。年始のご挨拶ですよ。」 「ご挨拶だったら別に絵はいらないんじゃないの?」 「いや、ご挨拶にかこつけての自己表現でもいいんだけれどね。いずれにせよ自己満足なんだし。まあいいんだよ。とにかく年賀状の絵を例年の通り描いたと。」 「いつものことをいつものようにやったのなら、わざわざ前振らないでもらいたいんだけど。」 「いや、話を始めるときになにかきっかけが欲しいでしょ。欲しくない?」 「始めたい話もないし。」 「いやいや、いつものとおり、絵にコメントを付けたいわけですよ。」 「付ければいいじゃん。」 「付けますよ。」 「一人でやってよ。」 「そういわずに付き合ってくださいよ。暇でしょ。」 「失敬な。年末年始はテレビ鑑賞にビデオ鑑賞、テレビゲームにインターネット、やることはいっぱいあるんだよ。」 「やらなくてもいいことばっかじゃん」 「マイティ・ボンジャックをクリアしないと3年間呪われるって細木数子に言われたんでね。不眠不休で取り組まないと。」 「なぜそんな古いゲームを。まあじゃあさっさと終わりにして、ゲームに戻ってください。まず、今回は子年ですね。」 「1の次は2のようなアプリオリな話だね。」 「ねずみを描くことになるわけだね。かえるクラブである以上かえるとねずみを題材にすると。」 「それくらい縛らないと描く発想力もないしね。」 「で、あなたの描いたもの。これはあれですか、かえるが笛を吹いていると。」 「他に何に見える?わざわざ音符描いてごまかしてんだから。ネギから音符はでないでしょ。」 「その後ろからねずみがついてきていると。」 「かえるから後ずさりしているかもしれないけどな。」 「まあ、一応聞きますけど、これは、ハーメルンの笛吹きが題材なわけですね。」 「そうだよ。あんまり景気のいい話じゃないけどね。」 「子供も連れ去られちゃうし。」 「そうそう。」 「でね、この絵の疑問というのはね、ねずみは3匹なのか、ってことなんだけど。」 「は?構図に収まる範囲が3匹なだけだと思うけど。」 「いや、3匹が等間隔に並んでるじゃない。4匹目がいるなら同じ間隔だと思うのが経験則というやつでしょう。何となく3匹で終わってるような感じを受けるんだけど。」 「3匹の間隔は2つしかないわけで、2例を以て3例目も同じと考えるのは、実証主義的に見ても根拠が薄すぎるんじゃないの?それに、縦に並んでるとはかぎらないじゃん。縦3横180の大行進かもしれないし。」 「橋のうえでそんなに並べるわけないでしょう。」 「ねずみに厚さがないかもしれないし。南米に生息するペッラペラねずみとか。」 「まあいいです。それより、かえるの帽子ね。帽子。」 「帽子がどうしたわけ?」 「これ帽子かぶってないよね。帽子が頭の奥で浮いてるよね。」 「うるさいな。これは背後で飛んでるUFOなんだよ。そんな人の絵に兎や角言うんだったら言わしてもらうけど。」 「何?」 「帽子帽子。なんか帽子がすっ飛んでるけど、駆けている人の帽子がその人より前に飛んでいってるのはなぜ?」 「こっちも未確認飛行物体なんですよ。」 「どうでもいいけどね。で、これは要するに、風車に突進するドン・キホーテなわけね?」 「まあね。正月っぽいかどうかは別にしてね。かえるもねずみも関係ないし。」 「ちょっとおかしくなってる人の話だしね。ただね、問題にしたいのはそこではない。」 「だから何?」 「いや、風車に向かってるわけでしょ。このかえるねずみ。」 「そうだけど」 「そのわりに、距離が近すぎないか?かえると風車の。」 「近かろうが何だろうが突進するんだよ。」 「何となく方向も合ってないし。後、手前の風車、奥のに比べて小さすぎない?」 「いやいや、連続する一連の同じモチーフが常に同じものと考えちゃあなんねぇど。」 「何弁だよ。」 「つまりわぁよ、こんのてまへぇにあんる風車がな、奥のもんとおんなじゃもんかちぃおもっちょったらそいはどえりゃあおおまちげえちうわけなんさ。」 「だから何弁?」 「俺弁だよ。面倒くさいときに使う言葉。さあ、じゃあ今回はこのへんで終わりにしますか。」 「いや、風車のサイズの問題は?」 「いやいや、まあ実際にはこの絵に至るまでにはね、ポストモダンからヘーゲル的弁証法への回帰というね、深淵な思想が含まれているんだよね。でもその解説をすると、1年間の講義ぐらいになっちゃうからね。やめときましょう。」 「難しい言葉を並べればいい、ってもんじゃないぞ。ポストモダンて何だよ。」 「そりゃあんた・・・、ポスト、ポスト、郵便ポスト、モダン?、現代の郵便事業?、すなわち民営化された郵便事業初となる年賀状のことですよ。」 「やっぱり知らなかったか。」 「とにかく、今年もよろしくお願いします。」 「強引だね。まあいいけど。」 〜かえるクラブにおける会話の一こまから〜 |