【 物件その1 】 悪魔くんの蛙男 |
唐突ですが、水木しげるの「悪魔くん」をご存知でしょうか?ああ、まだ白黒の頃にやってたテレビでしょ、メフィストが出てくる・・・、と思った人、年がわかってしまいます。「悪魔くん」で一番有名なのは、おそらく、そのテレビドラマになった、少年マガジン連載の、主人公が「山田真吾」という名前の「悪魔くん」だろうと思います。この主人公役をやっていたのは、仮面の忍者赤影の「青影」役をやっていた、名子役、金子吉延!と、結構長いあいだ思い込んでいましたが、違いました。金子は金子でも、やっぱり当時名子役といわれた金子光伸の方でした。どこでどう間違ったものか・・・。 「カエル男を追え!」レポートのなかで、蛙男を「悪魔くんの一二使徒」として書いたところ、「意味がわからない」とのご質問がありましたので、ちょっと解説を加えておこうかと。 有名な実写版の「悪魔くん」(1966.10.6〜1967.3.30)には、十二使徒も、蛙男もでてきません。しからば主人公の名前が「埋れ木真吾」のアニメ版「悪魔くん」(1989.4.15〜1990.3.24)でしょうか?ファミコンゲームでも出てましたし。一二使徒を集めるロールプレイングだったはず。とりあえず一二使徒は出てくるわけです。でも、ここにも蛙男は出てきません。 上記のメジャーな悪魔くんには断固として背を向け、当かえるクラブが愛して止まないのは、主人公の名前が「松下一郎」(地味・・)の貸本版「悪魔くん」と、それを書き直して膨らませ、少年ジャンプで連載された「悪魔くん千年王国」です。 この、松下一郎悪魔くんにおける十二使徒の「第一使徒」が蛙男なのです。 ![]() さて、一二使徒とはどういう役割の者たちなのでしょうか? 蛙男を作った悪魔くんは、さらに新しい家庭教師「佐藤」を連れてきて、ヤモリビトの魂を入れてしまいます。佐藤は、その魂を取り除くため、印度の世界的呪医(世界的な“呪”医というのもありそうでなさそうな称号ですが)フラン・ネール氏を訪ね、助けてもらいます。そのフランネールと佐藤との会話。 佐藤 :十二使徒って一体なんでしょうなるほど。そうすると、蛙男にもなんか特技がないといけませんねえ。蛙男の活躍場はこんな所に。悪魔くんとサタン(!)の大決戦で、サタンがクモに変化、悪魔くんを糸でぐるぐる巻きに。悪魔くん危うし!というところで大蝦蟇が登場。サタンをくわえて捕まえてしまう、というところの悪魔くんと蛙男の会話。 悪魔くん:サタンはどうした。しかし、蛙男の白眉ともいうべき活躍場所は、話の最後にあります。悪魔くんは「佐藤」に裏切られて死んでしまうのですが、数年後にその「佐藤」に再会した蛙男。この感動的な大演説をお読みください。 君はきせずして昔、銀三十枚でキリストを官憲に売ったあのユダと同じようなことをしてしまったのだ。キリスト、シャカときて、マルクスというのは時代を感じさせる名前ですが・・・普通同列にはしないよなあ。 引用:『水木しげる貸本傑作大全II 第一巻』人類文化社 |
【 物件その2 】 南半球の蛙男 |
Loveland Frogの絵は、なかなかインパクトがありますが、もっと強烈なインパクトのある蛙男絵が、18世紀フランスで出版されていたことを最近知りましたので、ご報告。 その本とは!レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ著「南半球の発見」!1781年に発表されて以来、幻のユートピア小説として収集家の間で高値で取引されていた本だそうです。長らく幻とされてきたこの本も、1977年に近代版が出版されて、1985年には、どういうわけだか日本語訳まで出ているという何ともよい時代になったもの。 ![]() お話は、ヴィクトランという人が、身分違いのクリスチーヌという人に恋をして、自由に空を飛べる翼を発明したのをいいことに、クリスチーヌをさらって高い山の上に閉じ込め、使用人やら必要な道具やらを全部、さらったり、盗んできたりして山の上に王国を作るという、どう読んでも“ユートピア”というよりは、ドラえもんの四次元ポケットを手に入れたストーカーの話のよう。でも、作者は妙にヴィクトランに好意的。 山の上の王国が狭くなってきたので、南半球の島に移住し、そこに王国を移したヴィクトラン。最初の島には夜しか活動しない「夜人間」が。他の島を探っていくと(場合によっては子供や孫等が探る場合も)、猿人間、熊人間、犬人間、豚人間、牛人間、羊人間、ビーバー人間、山羊人間、馬人間、驢馬人間、蛙人間、蛇人間、象人間、ライオン人間、虎人間、豹人間、鳥人間・・・馬鹿にしとんのかい! んで、これらの人種を見つけると、片っ端からさらってきて、教育を施し、ある程度従順になったところで、フランス人を島の監督官として派遣しつつ、島に帰す、ということをします。ホントにユートピア? では蛙人間がどういう風に発見されたか。長いですけど引用します。 エルマンタンとタゴベールが湖の縁に出てみると、若干の両棲動物が目に入りました。それらは水中に跳び込み、かと思えば泳ぐものもいました。エルマンタンがその動物の一匹を捕まえようとして駆け寄ると、どんなにかすかな足音でも聞きつけて怯え、たちまち水中に跳び込み、かと思うともう湖の中央付近、はるか遠くにしか姿が見えなくなるのでした。二人の若い飛行人間は、どうにも捕まえることができないので、仕方なく対岸へ飛びました。しかし二人が百フィートほども舞い上がるか上がらないかのうちに、およそ千もの顔が水面に突き出て二人を打ち眺めるのでした。湖の向こう岸には何ひとつ見つけられなかったので、二人は島の陸地を構成する地域を踏破してみることに決めました。二日間飛び回ってみたものの、鳥以外の生き物はいっこうに見あたりません。時折り、両棲動物が大げさな音を立てて湖に跳び込むのが聞こえるだけでした。こういった現象が繰り返されるのを意外に思った二人は、暗闇でも見える英国製の望遠鏡を使って、もしいるならこの島の住民を発見してやろう、いや、少なくとも鳴き声の聞こえる両棲動物が何ものであるかをはっきりさせようと、夜のあいだ身を隠すことにしました。彼らの疑問は早くも最初の夜に晴れました。両棲動物人間が湖から出て来て、地上の果実や木の根を探しに行くのがはっきり見えたのです。言葉を知らないように思われたにもかかわらず、たがいに合図の目配せをし合うのでした。この両棲族の頭には、毛髪のかわりに小さな鱗のようなものがあって、手足の指は薄膜で繋がっていました。彼らは地上で食べていましたが、数名は見張りに立っていました(おそらく、飛行人間が出現したからにちがいありません)。見張り番はどんなにかすかな物音を聞きつけても、ブルルルル=ルルレ=ケ=ケ=コア=コアクスとひと声あげ、仲間の集団を全員水中に戻すのでした。小さな鱗のようなものがあって、手足の指は薄膜で繋がっている、といえば、Loveland Frogの特徴とよく似ています。何か関係があるんでしょうかね。 この後、蛙人間の男女1組が網で捕獲されて、連れ去られます。教育の結果どうなったかについては、終わりまで触れられることはありません。 当時のヨーロッパの植民地経営を批判したりしている割に、独善的ヨーロッパ臭がぷんぷんしてくる作品。 |
【 物件その3 】 宇宙の蛙男 |
山岳世界惑星パラヴァータには、銀河系でも最高に危険な狩りがあるという。三重山にいる、猫ライオンのシネク、麝香熊のリクシーノ、コンドル鷲のシャソス、そして、岩猿またの名蛙男のベイター・ジェノを仕留める狩り。地球人のハンターで、生きて帰って来た者はいない。 親友アリンが命を落したこの狩りに挑戦するのは、富豪ガラマスク。パラヴァータ人であるオガンダのガイド、チャヴォとともに三重山を登り、四つの生き物を仕留めに行く。この山では狩猟に飛び道具を使うことが禁じられている。弓矢や投槍、投石器すら反則である。獲物を仕留めるには、必ず肉弾相打つ真正面からの対決によらなくてはならないのだ・・・。 というような内容の、ラファティ著「山上の蛙」。これだけ読むとちょっと格好よさそうな話ですが、どちらかというと奇妙な味わいの短編です。最後の獲物ベイター・ジェノが「岩猿ないし蛙男」という正体不明の生き物になっていますが、この最後の生き物については、実際に読む人のために、ここでは明らかにしないでおきます。 さて、この中に出てくるガイドのチャヴォは「オガンダ」という人種ですが、この姿はまさに「蛙」であるとなっています。 また、オガンダには、「蛙信仰」があります。 「だども、あんたの話だと、地球には蛙神はござらっしゃらねえが、蛙はいるだな?おらたちの世界には、蛙神はござらっしゃるが、蛙は地球から持ちこんだのしかいねえだよ。それに、輸入された蛙は、ちっぽけな蛙だだ。いちばんでっけえのでも、両手にすっぽりはいっちまうだ。おらは地球の蛙の夢をよく見るだよ。地球の蛙はどれぐれえでっけえだね、パパ・ガラマスク? 王様リクシーノぐれえでっけえだか?」パラヴァースというのはパラヴァータの別名だとか。どうやらオガンダの蛙信仰は、地球から蛙が輸入されたことがきっかけになった、比較的新しいもののように読めます。信仰の要点は「蛙飛び」。これは、蛙のおたまじゃくしからの変態を表しているらしく、変態を死と再生に結びつけることで、蛙を再生のシンボルと見る古代エジプトの神話と繋がるところがありますね。 R・A・ラファティ著/浅倉久志訳 「山上の蛙(Frog on the Mountain)」(「九百人のお祖母さん」ハヤカワ文庫所収) (この短編のほかにも、ラファティの短編には、一風変わったユーモアが溢れるものが多く、楽しく読めます。「九百人のお祖母さん」を見かけたら、蛙男のために買ってみるのはどうでしょう。) |
【 物件その4 】 歌う蛙男 |
![]() まさに、「カエル男」クラレンス・ヘンリー。1937年ニューオリンズ生まれのボーカル。公式ページはこちら どの辺りが「Frogman」かというと、「蛙の声で歌う」から。 「Ain't Got no Home」という歌が、1957年にビルボードの20位まで上がるヒットとなったのですが、この歌、「少女の声から蛙の声まで」ということで、ファルセット、まあ裏声で「I'm a Lonely Girl」と歌ってみたり、「バド」「ワイ」「ザー」と鳴いてる蛙のような声で「I'm a Lonely Frog」などと歌う、芸を聞かせる曲。(曲調はロックンロールかな?) ベスト版は今でも手に入ります。蛙好きはぜひ。 アマゾン・ドットコムならこのページで売ってます。(試聴もできます。ただ、「少女の声」まで。「蛙の声」になるまえに終ってしまいます。) クラレンス・フロッグマン・ヘンリー |