![]() これほど何でもありの状況なら、蛙が紛れ込んでいたって、誰も文句はないはずです。これから福の神としての蛙を探しに行きましょう。 中国の縁起物に「八仙渡海図」というのがあって、道教の仙人8人が雲に乗って海を渡っているものですが、七福神が宝船で海を渡るのとよく似たモチーフになっています。八仙の構成は、七福神にも異同があるように、一定していませんが、おおよそ、 呂洞賓(りょどうひん)・漢鐘離(かんしょうり)・張果老(ちょうかろう)・韓湘子(かんしょうし)・鉄拐李(てっかいり)・曹国舅(そうこくしょう)・藍采和(らんさいわ)・何仙姑(かせんこ)の8人となっています。ジャッキー・チェンのファンならピンと来るでしょう。これは、「酔拳」の酔八仙です。 この中の一人、鉄拐李という人は、魂だけで移動できる術を持っていましたが、魂が離れているときに、自分の身体を焼かれてしまったため、行き倒れになっていた乞食の身体に入った、という伝承になっています。その乞食の片足が悪かったため、片足しか使えなくなって、杖が手放せない仙人です。酔拳でいえば、「鉄拐李は片足立ち!」というところ。 (⇒ジャッキー公式ページ。酔八仙拳の説明が充実) さて、これがどうして蛙に関係あるのか。いや、ちゃんとそっちに持ってきますから。もう少しご辛抱。 ![]() 「ああ、霞谷七人衆の一人でしょ、赤影に出てた」と思った人、それは「蝦蟇法師」です。(そんな人はいないか。) この蝦蟇仙人が連れている「ガマ」こそ、霊獣(?)三足蝦蟇。後足が一本しかないという三足の蛙がなぜ、霊力があるといわれるのかはよく分りませんが、中国では、「青蛙神」とか「青蛙将軍」、「金華将軍」などと呼ばれ、縁起物として信仰されています。 「半七捕物帖」で有名な岡本綺堂は、この青蛙神を題材にして短編を書いています。(『青蛙堂鬼談』) 全文は、こちらのサイトに掲載されています。有り難いことです。 ⇒綺堂事物 寺島良安・和漢三才図会には 蟾には三足のものがある。けれども亀・鼈にも三足のものがあるので、蟾の三足も怪しむにあたらない。そもそも蟾蜍は土の精で、上は月に感応し(一)、性は霊異で土に棲んで虫を食べる。とあります。中国では月に兎ではなく、月に三足の蛙がいるのです。(太陽には“からす”) 蝦蟇仙人はこの三足の蛙を捕えるために、金貨で釣り上げました。この金貨を食べる性質から、三足蛙は「財神」として民間に行渡ったようです。 この三足蛙を「登録商標」にして使用している会社があります。まさに商売繁盛のシンボルになっているわけです。その会社とは、「株式会社 藤井利三郎薬房」。かの有名な「陀羅尼助丸」を販売している会社です。ここのホームページに分け入ると、トップページで登録商標の三足蛙が動き回っています。また、ここのお店には、桜の木で刻まれた三足蛙の像があり、家宝となっているとか。 陀羅尼助丸というのは、先ほどの「蛙飛び行事」に出て来た「役の行者」が作り出した秘薬。何だか因縁めいたものを感じます。 登録内容はこんな感じ。 ![]()
中国では、三足でなくとも、特にヒキガエルは霊物とみられていました。 『抱朴子』には、千歳になったヒキガエルは頭に角が生え、腹の下に赤い模様が付くようになるとか。仙人は、この角の生えたヒキガエルを使って、霧を起したり雨を祈ったり兵を避けたり縛られた縄をといたり・・・・するということが書かれています。 中国で財神として信仰されていれば、日本でもその影響があることは十分に考えられます。 そして、もうひとつ、日本では、蛙が縁起物の神となるためにもうひとつ重要なファクターがあります。それは、「かえる」という言葉が、「帰る」「返る」等の音に繋がるため、語呂合わせがしやすいということです。現に、「金蛙(かねかえる)」とか「無事蛙(ぶじかえる)」などのお守りを見かけたことはないでしょうか? ちなみに、この2物件は、実際に商標登録されています。 特に、「無事蛙」の方は、思いっきり神社が登録していますが、「神社が商標」というところに何か引っかかるものがあります。この神社には「蛙の木」があり(蛙に似たサルノコシカケが付いた木)、戦争中は「勝って蛙」として兵士に、戦後は、交通安全の守護「無事蛙」として信仰を集めているんだとか。 ある意味、これは洒落だけで蛙が信仰されているわけですね・・・・。 蛙の語呂合わせでお守りを作ろうと思っていた方、ご注意を。 しかし、この点、まったくの語呂合わせだけとは言い切れない面があります。 「かえる」の語源に関する説は各種ありますが、もっとも有力な説は、蛙の「帰巣本能」に基くというものです。ヒキガエルは産卵するために、生まれた池に帰るといわれているためで、「帰る」=「蛙」というわけ。 貝原益軒の「大和本草」には、「ヒキカヘル」の項目で、 「他土にスツレハ必カヘル故名ツク」 としており、「カヘル」の項目でも 「コレモ他土ニスツレハ必モトノ處ニカヘル故ニカヘルト云」 としています。 小野蘭山の『重訂本草綱目啓蒙』にも同様に、 「蝦蟇ニ限ラズ蟾蜍モ遠處ニ移セバ必還リ来ル故ニ皆カヘルト呼ブ」 と書いてあります。 「無事蛙」にもそれなりに裏付けがあるということでしょうかね? また、いわゆる「ヒキガエル」の「ヒキ」の部分も曲者です。ヒキガエルの「ヒキ」は「引(く)」からきているというのが一般的ですが、これは、人間の精気を引き付けて吸い取ってしまうとか、小動物を気の力で引き付けて食べるなど、ヒキガエルに超能力があると信じられていたことが影響しています。三好想山の『想山著聞奇集』には、縁の下にいて、その家の人間の精気を吸って弱らせる蟾蜍が登場します。 引き付ける力は、客商売にとって、「客を引く」縁起物と考えられるのも当然で、庭先に置いたりする蟇蛙の置物がポピュラーなのは、この辺りからくるものなのでしょう。多分。 この、福の神としての素質十分のヒキガエルが祀られていないはずはありません。 [ ⇒次を読む ] ※ 参考:荒俣宏「ビジネス裏極意 商神の教え」(集英社文庫) |