宗教戦争顛末記

宗教会議

 イラルスは出かけようかどうか迷っていた。実際、今日の会議(注1)は彼自身が招集したものであるし、行かなければならないのは明らかだった。それでも彼は、自分がこれから引き起こすかもしれない重大な結果を恐れ、決心がつかないでいた。
 あの日、授業中叫び声をあげたあの子の話を聞かなければこんな面倒臭いことにはならなかったのに、と少し後悔しながらも、あの場で理由を聞かず、その後二人きりの時に聞いたのは正解だった、と彼は後悔を多少埋め合わせる満足を感じた。あの場で聞いていたら大騒動だった!
 「よし」彼はとりあえず会場に向かうことにした。
 当時、エルフロッグ教師会は、沼の中央にある4ペクト四方(注2)の浮島で行われることになっていた。
 彼は泳ぎながら、3度、やはり行くのを止めよう、と思ったが、結局、行くしかない現実の前に、進まされていた。
 彼が、会場の浮島に到着すると、すでに、5〜6人の教師が集まっていた。
 そのうちの1人は、西第1区のカル、もう1人は、東第4区のリカーであった。この2人が、教師の中で最も年輩であり、その結果、発言力が強いのであった。また、当然の結果として、彼ら2人は互いに仲が悪く、意見の一致をみることは稀であった。  イラルスは、南第3ブロックの教師であったが、会の出席者の中では最も若く、発言力(注3)は低かった。
 その彼が会議を招集することは異例のことであり、(臨時に開かれること自体が異例であったのだが、)カルとリカーはこの2人にしては珍しく、イラルスにまったく同じ質問をした。
 「一体なんだというんだ。」

 注1.エルフロッグ教師会は、東西南北それぞれ4ブロック、合計16人の教師が、ヒルベルト沼かえる社会におけるすべての事柄について、最終決定をくだす機関であった。
 定例で開かれていたようだが、どの程度のサイクルであったかは不明(「エルフロッグ教-その意志決定のプロセス」ベルト・モンティ著)

 注2.1ペクトは、かえる飛び3回分の距離とされており、約45センチと推定されている。(前述「ヒルベルト沼におけるかえる社会」)

 注3.原則として、各教師の間に上下関係はなかった(前述「エルフロッグ教-その意志決定のプロセス」)と推測されるが、どの社会においても、ある程度現実の上下関係は存在するということか。


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