宗教戦争顛末記

宗教会議(2)

 彼は、有力者2人の質問に、「まあ、会議の中でおいおいと」と言ったまま、後は黙っていることとした。
 その他の教師も集まり、会議が開始された。議長は、毎回まわり持ちであったが、今回は、イラルスの緊急動議による臨時集会であったため、議長は、順番と関係なかったが、西第1区のカルがつとめることとなった。
 「諸君、本日は、今まで類を見ない教師会の開催となった。実際、私も何で呼ばれているのか良く分からんのだが、今日の収集の件に関して南第3区のイラルス君から説明がある。」
 カルは、本来なら自分は知っているはずなのだが、といった不満そうな顔付きをしながら、彼に発言を促した。
 彼は、起立すると、一同を見回し(16人は、円卓(注1)を囲む形で着席するのが一般的だった。)、少々かん高い声で、話しはじめた。
 「皆様、今日お集りいただいたのは、他でもあり、他でもあるようなないような、えーと、それはそれとしまして、私の管轄しております南第3ブロックにおきまして、とんでもない事態が発生しまして、その、発生といいましても、まあ、何も起こってはおらないわけですが、まあ、起こっては遅すぎる程重大な事柄でありまして、とりあえず、皆様にお集りいただいたわけです。」
 「おい、緊張して、まったく話が前に進まないじゃないか。」
 リカーが口を挟んだ。すかさずカルは、「議長として申し上げるが、発言は、私の許可を得てからしていただきたい。」と牽制する。相変わらず2人は仲が悪い。
 「私の担当しております授業の、あの、その授業は初等科のなんですが、その初等科の生徒が、授業中居眠りをいたしまして。」
 「まさか、生徒の居眠りなんかで我々を呼んだんではあるまいな。」リカーがまた口を挟む。
 「いや、もちろんそんな訳ではないんで。なにせ、今日びの生徒は、眠っていない者をさがす方が大変てなもんですから。そういう問題ではなくて、私が思うに、これは、エルフロッグ教を根底から覆す考え方との認識に立って、皆様にお話にまいった訳でございます。」
 「また、振出しに戻るか。」リカーがまぜっ返す。
 「リカー君、君が口を挟まなければ、もうちょっと円滑に説明が進行するものだと思うが。」カルもすかさず反応する。
 「とにかく、私が本日お話申し上げたいのは、私の第3ブロックの生徒が授業中夢を見まして、まあ、本人は、夢ではないといっている訳ですが、その夢というのが、なかなか馬鹿に出来ない内容でして、そのー、なんというか、重大なわけです。」
 「イラルス君、もうちょっと簡潔に話してくれんか。」今度は、カル自ら口を挟んだ。
 「いや、議長のお怒りももっともでございますので、とにかく要点だけを述べることとします。要点と申しましても、すなわち問題の所在を明らかにするということでございまして、つまり、私どもの生徒が、今現在各地区において統一型で使われておりますあの「神エルの肖像(注2)」について、間違ってる、と申した訳でございます。」
 「とにかく、神エルの肖像は、自身の姿を模し、我々ジャマエルを創造したとの記述から、我々の姿をモデルとして作成したものな訳です。そこで、重要なのは、我々ジャマエルは、幼年期と成年期をまったく異なった姿で過ごすということな訳です。」
 会場全体に、何となく、イラルスの不安な空気が伝染し、カルもリカーも黙っていた。
 「なんと、私の生徒のいうには、」イラルスは、ちょっと間を置いて、決定的な一語を口に出した。
 「神の姿は、ジャマエルの幼年期、すなわちおたまじゃくしである、というのです!!」

 注1.アーサー王の伝説にある円卓のように、その上下を明らかにしないための配慮であるのか、それとも、原典「円い(円形の)テーブル(机、台)」にあるように、単に円いだけなのかは、今後の研究が待たれる。

 注2.神エルの肖像は、11世紀ごろ、いわゆる古代かえる文化の発展期において、写実的表現が可能となった彫刻技術を用いて作成されたといわれる。原形の作成者は、一説によれば、ヒルベルト沼北岸より出土した、かの「かえるヴィーナス」の作成者と同一であるという。(「かえる文化-その栄光と挫折」左 珍五郎著)

 

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