宗教戦争顛末記

全員投票

 大波乱の教師会は一応終了し、それぞれの教師はそれぞれのブロックへと帰った。
 イラルスも、ある意味予想通りに進行した会議が終了したことにちょっと安堵を覚えながらも、つぎの全員投票に向けて、自分の立場をはっきりさせなければならないことを考え、胃の痛くなる思いであった。

 全員投票日までの1ヶ月(注1)、カルは自分の地盤である西区を中心として保守派層をとりまとめ、また、現行の神エルの像に対する礼拝を強化し、その神聖を高める方策をとった。
 一方のリカーは、夢を見たヤムル少年を新たに予言者として掲載する教科書の作成、おたまじゃくしをモチーフとした新しい神エルの像作成など、新規ムーブメントの創造のため、活動を続けていた。
 イラルスは、ヤムルが自分の管轄の生徒であることもあり、ヤムルを頂点に据えた、エルフロッグ新派を尊重する形をとりながらも、教区の住人に対して、どちらかを強制することはしなかった。
 最終的には、保守層の多い北区と自分の地盤である西区を票田としたカルら成人かえる派と、ヤムルのいる南区をかついで南区および東区を地盤にしたリカーらおたまじゃくし派という形で色分けされた。
 特に、東区第3ブロックにおける過激おたまじゃくし派(注2)の活動は活発で、隣接する北区の教会に押し入っては、「神エルの肖像」を破壊してまわっていた。彼らは、この他にも、現在でも確実な証拠はないものの、反対派、保守派に対する傷害事件114件、器物破損32件について疑われている。
 そして、投票の日はやってきた。

 注1.1ヶ月の長さは、太陰暦とほぼ同様であるようだ。月の満ち欠けを基準に暦を創る、というのはどの動物においても共通のものらしい。

 注2.特に、メンバーの中心であった3人のおたまじゃくしは、全身を赤くペインティングしていたため、「赤い3連星」と呼ばれ、保守派層から恐れられた。(「かえる社会とガンダム」現代病理を考える会編)

 

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