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蛙昇天〜ある哲学者の話〜

 ※ 引用文中、文字フォント、文字色等を変更して強調している部分は、当サイトで付したもので、原文とは関係ありません。

■ 国会での証言 ■

 3月16日、徳田球一書記長は、参議院に喚問されますが、事件については完全否定しました。このときの証言を、菅季治は傍聴席で聞いていました。この日、もう一つの議題として、菅季治を証人として喚問する件も可決されましたが、その際、委員長から、菅氏からの通牒として次の文が読上げられています。これは、彼の姿勢をよく示していると思いますので、載せておきます。

 私は一九四九年九月十五日、カラカンダ市第九分所で通訳をしたものです。私はいわゆる徳田要請の存否一般については何も知りません。ただあのときあの場の事実だけについて述べることができます。私個人としては久保田氏達の証言が事実そのままではないと言つたと共に、必ずしも意識的にでつち上げたデマとも断言できないと思つております。従つて九日附アカハタ氏の記事は私の報告及び談話を正確に伝えていません。例えば事実を全く覆した悪質デマなどとは私は報告に書きませず、又話もしません。十日朝、朝日新聞とアカハタ氏とにこの点に関する抗議を出して置きました。現在私はどんな政治的立場にも無関心であります。ただあのときあの場の事実に関する限りいつでも証人として立つ用意があります。


 3月18日、彼は、「参議院在外同胞引揚に関する特別委員会」に証人として出廷します。
 その議事録は、「国会会議録検索システム」から読むことができますので、すべてを掲載することはしませんが、「自分が知っているのはあの時の事実だけであって、徳田要請があったかどうかはわからない」という立場の菅に対し、「事実は兎も角、自分として、あったと思うかなかったと思うか」という点をひたすら突っ込む委員という内容です。一部を抜粋しましょう。

○委員長(岡元義人君) 只今委員長から二、三の質問をいたしまして、まとめて行きたいと思つております。尚続けてお伺いいたしますが、菅証人は十六日の当委員会を傍聽されておりましたか。
○証人(菅季治君) 傍聽しておりました。
○委員長(岡元義人君) それでは伺いますが、あの十六日の委員会におきまして、徳田証人からそういう要請、その他は絶対にないという御証言があり、又タス通信の問題に触れられたわけでありますが、あなたは通訳に当られた際に、十六日のあなたがお聞きになつたいわゆる状況等から判断いたしまして、その通訳の際に、あなたがお感じになつたことは、要するに直訳で書類は出されておりますけれども、何かそういうような連絡が来ておつた。何らかの連絡があつたからそれをそのまま九月の十五日に政治部将校から話があつたんだ。それを通訳したんだ。こういう工合にあなたは考えられますか。
○証人(菅季治君) 私自身としては、そのようにも、そうでないとも、どつちとも言えません。(「はつきりして貰おう」「はつきりしてるじやないかと呼ぶ者あり)
○委員長(岡元義人君) 重ねて菅証人に伺いますが、十六日の傍聽をされまして、絶対にないということを徳田証人からあなたは発言があつたことを聞いておられますか。
○証人(菅季治君) ええ。
○委員長(岡元義人君) 証人はそのとき、あなたが通訳されたことと、どのように考えられますか。
○証人(菅季治君) 政治というのはむずかしくて分らないのです、実際。
○委員長(岡元義人君) 尚もう少し……(議事進行と呼ぶ者あり)今委員長から質問中です。委員長からもう少し補足して言いますが、先程も小杉委員から質問の点が触れておられますけれども、あなたが通訳されたその中に、そういつて来ておる。記載しておる。いずれにいたしましても、あなたが通訳されたことと、十六日の委員会において発言されたことをお聞きになつた点と、これが違つておると、若し事実タス通信によつて発表された通りであると、徳田証人の証言の通りであつた場合には、あなたが九月十五日に通訳された場合にそこに食い違いがありはしないかということを考えられますか、ということを聞いておるのです。もつと分りやすく言います。もう少しはつきり言います。若し全然ないと、そういうことがなかつたと、十六日の委員会の通り全然なかつたとしますれば、ああいう通訳をあなたがされたのですな。このエルマーラエフ中尉からですか言われたことを、これはエルマーラエフ中尉自体において言つたことだ。こういうふうにお考えになりますか。
○証人(菅季治君) 私個人の印象としましては、あの爺さんはこういう……。
○委員長(岡元義人君) 爺さんとは何ですか。
○証人(菅季治君) いや、あの将校、政治部の将校のことを爺さんと言つているんですが、こういうことを言つて逃げたと感じました。感じたのであります。帰国に関することをはつきり言えなかつたか言うことを欲つしなかつたので逃げたという感じを受けたのであります。
○委員長(岡元義人君) 菅証人が先程来証言しておられる通り、そう言われたことをあなたが通訳しておられる。その通訳に対して、タス通信によつてそういうことは全然ないのだという発言があつたわけですね。その点についてあなたどのように考えておられるか、こう聞いておるのです。
○証人(菅季治君) あつたなかつたか、政治の複雑なことは分りませんです、(「議事進行」と呼ぶ者あり)
○委員長(岡元義人君) 委員長が分るように申します。菅証人に申します。(「誘導尋問しようとするから分らなくなるんだよ」と呼ぶ者あり)お靜かに願います。菅証人にもう一回申上げますが、私は先程申上げましたように、全然なかつた、十六日の委員会においてはそういう全然要請も何もしていない。タス通信によつても明らかだということは言われたわけです。そうすればあなたが通訳されたということは、これは向うの政治部将校が勝手にそういう工合に話したものであるか、ということについて聽いておるわけであります。返事だけを頂ければよいのです。
○証人(菅季治君) タス通信の言うように全然なかつたとすれば、あのソヴイエト将校の発言は事実ではなかつたと思う、こういうわけであります。或いはその政治部将校が自分の独自の、自分だけの個人的な気持から言つたのか、こういうわけであります。
○淺岡信夫君 要するに端的に申上げれば、徳田要請があつたか、なかつたか、本人はないと言つておる。やつたことはないというし、タス通信もないというし、そうしたことを私は証人にお伺いしようとは思わないが、こういうふうに当時あなたが通訳をされて、徳田書記長からそういう要請があつたと思つたか、思わないかということをただ簡單にあなたが通訳をされた結果ですね、分りますか……。簡單に言いますよ、もう一遍、日本共産党書記長徳田は諸君は反動分子としてではなく、よく準備された民主々義者として帰国するように期待しておる、ということを言つて来たと思つておりましたか。或いはただ政治将校が單にそういうふうに言つたと思いましたか、どつちでしよう。
○証人(菅季治君) 私自身としてはそういうことを考えませんでした。というのは、もつとそれを詳しく言いますと、政治部将校というものは十一分所の所長でありました当時、大変酒呑のだらしない男だというので首になつております。第九分所に行つてからは、何かはかない倉庫番かなんかやつていたのであります。それが一九四九年の何月頃からか政治部将校になつたそうであります。その場限りのことであろうと私としては政治将校の性格からは思つていたわけであります。
○千田正君 それは心理的に非常にむずかしい。ソ連地区において、カラカンダの地区において聞いていた時の菅証人の感じと、一昨日いわゆる徳田書記長のノーという言葉を聽いて、更に当時を振返つて考えた現在の心境というものと二つの心理がある、いずれをあなたは問おうとするのですか。
○委員長(岡元義人君) その後の方です。
○千田正君 それを言つて貰いたい。
○委員長(岡元義人君) 委員長より今の淺岡委員の質問を補足しますが、委員長の気持は、その状況を一昨日、十六日の傍聽された後においてどう考えられますか。こう聞いておるのです。
○証人(菅季治君) 私自身としましては、徳田書記長が何と言われようと、前に参議院並びに朝日新聞、アカハタ紙に出したときの気持と少しも変りません。で、徳田書記長のあの場面を見ましても、まあこれは暴れるな、政治というものは相当実際においては乱暴なことをやる。参議院を見てぽつとしただけでありまして、別にその気持は、最初に感じたときの気持と全然、あの徳田書記長の言葉によつてどうこうというような心理的な影響は、感じておりません。
○委員長(岡元義人君) 証人に、大事な点でございますので尚この点をもう少し明らかにして頂きたいと思うのですが、あなたは当時(「委員長」と呼ぶ者あり)靜かにして貰いたい。委員長から聞いておりますからちよつと待つて下さい。あなたが通訳をしたということは、あなたはよく御承知なんだ。あなた自身がやられたその通訳をした内容について一昨日、十六日の委員会を傍聽されて、そうして今日、現在において、あの傍聽された、全然否定されたということから、そのときの通訳された内容を考えられて、それは若し十六日の委員会において事実なかつた、タス通信が伝えるごとくなかつたというのであつたならば、あなたが通訳、九月十五日カラカンダでされたことは、これはその政治部のエルマーラエフ中尉の勝手に、いわゆるその場で発言されたことである、こういう工合に考えられますか。こう聞いておるわけです。この問題を重ねて、証人にあなたが本人であつて、全然この問題についてお考えがないというようなことは考えられないと考えますので、(笑声)委員長は質問しておるのでございます。……菅証人にゆつくりお考えになつて答えて頂きます。(「委員長」と呼ぶ者あり)ちよつと待つて。
○証人(菅季治君) 私一人としては徳田要請、あり十六日の傍聽以前においても以後においても徳田要請があつたかなかつたかということは、やつぱり自分自分何も分らないのであります。併し現在、今委員長さんからしばしば聞かれましても徳田書記長と、それから今度は僻地カラカンダの一分所の政治部将校とはどうも連絡がないように感じます。直接の連絡というよりも、心理的に言つても委員長さんの出されたような問題から言つても、どうも何ら関係がないように思います。
○委員長(岡元義人君) どうも菅証人に委員長がお聞きしているのは、そういう意味でではなくて、あなたが通訳された御本人ですからそのことと、全然十六日にそういうことはなかつたのだ、徳田証人から全然何ら向うとの連絡がなかつたのだということを証言なすつた。それをお聞きになつて、あなたが通訳されたことを振返つて考えて見て、一体誰がああいうことを、それで言つておるのだろうかということはお気付きになると思う。その点を誰か……、若しあれが十六日の証言が事実としますならば、一体だれがこれを言つたものだろうか。いわゆる政治部将校のエルマーラエフ上級中尉が勝手に言つたものである、かように判断されますかと、こう委員長はあなたに聽いておるわけでありますが……。
○証人(菅季治君) 併しあの政治部将校エルマーラエフがその場限りのことを言つたのだと私が感じましても、客観的に実際そういう徳田要請があつたかも知れないのであります。ですから徳田書記長といたしましては当然あのような嚴しい強い態度で否定されたことは、私が傍聽しても、しなくなも当然予想されたことと思うのであります。別に傍聽後を振返つて見ましても心理的に何ら変つておると私は自覚しないのでありますが……。
○小杉イ子君 私は勘違いかも知れませんが、委員長のおつしやることは、徳田氏があれ程断然言わない、書かないと言つておるのに対して、あなたは飜訳をなさつていながら、それを何を言つているのか、お前は嘘つきじや、やつているじやないか、聞いたじやないかということをあなたは感じなさらなかつたかという質問ではないかと、こう思うのですが、通訳でございますから、技術的ですから、第三者としては何も考えられんかも知れない。併し若し濃厚な主義者であるならば、興奮するに違いないと思います。その時にあなたは興奮されたじやありませんか。それはどういう興奮でしたか、それを一つお聽きします。
○証人(菅季治君) それは違う理由で……。
○委員長(岡元義人君) 一応お諮りいたしますが、菅証人対する質疑はこの程度で留保いたしまして、次に亀澤証人の証言を求めたいと思います。御異議ございませんか。


 結局、菅は、この委員会で、事実を証明するための証人として呼ばれたのではなく、「徳田要請を信じるか信じないか」という踏み絵を踏まされに呼ばれたことがわかります。執拗な質問にもかかわらず、「あるかないか、それはわからない」という立場を貫いた菅は、ただそれだけのために、ますます、「共産党をかばっている」という目で見られることになります。

 3月27日参議院は、「徳田要請は事実」と結論、衆議院に渡されます。
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